続・モノポリーの名誉のために

先日、Eテレの「スーパープレゼンテーション」という番組で以前紹介した記事に登場するPaul Piffさんのプレゼンテーションがありました。

 http://www.nhk.or.jp/superpresentation/backnumber/140903.html

感想については過去に書いた記事と変わることはありませんが、過去に記事を書いたときはこの実験の詳細な方法が示されていませんでしたので、以下に実験の詳細を書いておきます。


・実験場所 アメリカ・カリフォルニア大学バークレー
・実験対象 初対面のペア100組以上
・実験方法など コイントスを行いペアの片方を「金持ち」としてモノポリーを行う
モノポリーにおける金持ちのアドバンテージ 最初の所持金が2倍(3000ドル)、GOを通過したときの給料も2倍(400ドル)、相手よりもサイコロを多く振れる(回数か個数かは不明)
・実験時間 15分
・撮影方法 隠しカメラ
・その他 「完了行動」の調査としてテーブルに菓子(プレッツェル)を用意し、被験者がどのくらい食べるか観察した。

 

 

・実験結果 

大きな音を立てて駒を動かすようになる、大げさな喜びのポーズなどの得意げな態度が「金持ち」のほうに多く見られた。
また、置かれた菓子は「金持ち」のほうがよく食べる傾向がある。
ゲームが進むと「金持ち」は相手に大して横柄な態度を取る、自分が勝っている事をアピールするなど態度が悪くなっていく。
実験後、「金持ち」にゲームの感想を聞くと、たまたま有利な状況になったことには触れず、自分がどういう風にプレイしたかを語る。

 

いくつかこの実験に対する疑問点や私なりの答えを挙げます。

 

最初の疑問は心理学の実験では必須といってもいい統制群(※)を用意していないということについてです。プレゼンテーションではこの有無については明らかにされていませんでしたが、実験結果は実験群のみの結果を見たものであって、通常の状態でプレイさせたものと比較しなければ何の意味もありません。

(※)統制群・・・別名を対照群ともいい、操作を受ける実験群に対して何の操作も受けない集団のことです。

故意に有利な状況を作り出さなくとも、統制群において勝っているプレーヤーは横柄な態度に出やすいという実験結果が出ることも想定できます。ただ、それだと金持ちでなくても勝っているプレーヤーは横柄な態度に出るという、実験の根幹に関わる問題となります。

 

次に、この実験では1対1でモノポリーをプレイしていましたが、1対1のモノポリーは互いに独占となる交渉が成立する余地がありません。
このため、この実験におけるゲームはモノポリー本来のプレイングである他者との交渉が存在しないというかなり特殊なものとなります。
これだと実験に使うボードゲームをThe Game of Life(日本版の名称は「人生ゲーム」)にしたほうが良かったのではないでしょうか。

 

三番目に、置かれた菓子を食べる行動についてですが、レンタル料を支払う側より受け取る側のほうが手持ちぶたさとなる機会が多いため、必然的に「金持ち」の方が菓子に手を伸ばす回数は多くなるでしょう。

 

最後に、この実験では被験者のモノポリー経験の有無やゲームと現実では態度を変えることがあるかといった重要な項目が調査されていません。
例えば、被験者がモノポリー経験者であり、紳士的にプレーすることを心がけているのであれば、実験者の期待する「イヤなやつ」になる傾向は出にくくなります。
むしろ、このゲームの「欠陥」に気づき、ゲーム中に何らかの異議申し立てを行ってもおかしくはありません。
逆に、被験者がモノポリー未経験者であり、ゲームでも現実でも態度を変えることがないというのであれば、実験者の期待する「イヤなやつ」になる傾向は出やすくなります。
もちろん、経験者であってもゲームでも現実でも態度を変えない人や未経験者であっても紳士的にプレーすることを心がけているという人の存在は否定できません。
なお、実験者の主張に対しては、この実験の条件に「金持ち」をもう1人加えるだけで全く逆の傾向が出る可能性があることを示しておきたいと思います。
すでにこちらのブログでも指摘されているように、ゲームの状況次第では「金持ち」が現金や資産の少ないプレーヤーに対して損失覚悟で交渉を行う(価値のある権利書を流出させたくないなどの思惑はありますが)、つまり「イヤなやつ」どころか「イイやつ」になってしまうことも十分あり得ることです。
ただし、このプレイングはある程度の経験がなければ行いにくいため、未経験者が2人「金持ち」であれば、助け舟を出せる状況に気づかず破産を許すということもありえます。

 

このプレゼンテーションには良い印象を持たなかったのですが、この番組の最後に女優の吹石一恵さんが登場してプレゼンテーションの感想を述べる際に「実は私、このゲーム(注:モノポリー)すごく好きで、――土地を買って、家を建てて、自分の資産を増やすゲームなんですが――やはり勝つとついつい熱くなっちゃうんですよね。」と言ったことがこの番組を視聴して良かったと思った唯一の点です。